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名古屋高等裁判所 昭和34年(ラ)90号 決定 1961年1月09日

抗告人 伊藤伊八

訴訟代理人 池田輝孝

相手方 鈴木長治郎

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告の要旨

名古屋地方裁判所昭和二四年(ユ)第二五号建物収去土地明渡調停事件につき同年七月一日成立した調停調書の第二項には「二、右借地権の存続期間は昭和二十二年八月二十五日より昭和三十二年十二月末日迄とし被告は原告に対し同日限り異議なく右土地を明渡すこと」とあるが本件調停は訴訟事件から調停に付されたもので右訴訟事件は建物収去土地明渡請求事件であつて本件調停当時右土地上に相手方(本件調停調書中の被告)所有の家屋が存在していたことは右件名及び本件調停調書第九項に「被告が本件地上家屋を云々」とあることから明らかであり又その家屋は別紙目録記載の家屋であることは昭和二十四年二月十七日受付にかかる保存登記の登記簿謄本によつて明らかである。従つて前記調停調書第二項において右建物を収去して土地を明渡すべきことを記載すべきに拘らず単に土地明渡のみを記載したのは明白なる誤謬であるから原決定を取り消し、右第二項を「二、右借地権の存続期間は昭和二十二年八月二十五日より昭和三十二年十二月末日迄とし被告は原告に対し同日限り異議なく別紙目録記載の建物を収去して名古屋市中区南伏見町二丁目十三番地及び十四番地の七所在の別紙図面表示のA及Bの土地を明渡すこと」と更正するとの決定を求める。

当審の判断

原決定は、抗告人の主張のように本件調停調書に明白な誤謬ありと断じ得ないとして本件更正の申立を却下した。

しかるところかかる更正の申立を却下した決定に対し抗告をなすことができるか否かについて案ずるに、判決の更正決定に対しては即時抗告をなし得ることは民事訴訟法第一九四条第三項に明定するところであるが申立却下の決定に対し抗告をなし得るか否かについては旧民事訴訟法第二四一条第三項には不服申立を許さずと定めてあつたが現行民事訴訟法には直接これと同旨の定めがないから同法第四一〇条と関連して学説上争のあるところであり、判例(大審院昭和一三、一一、一九決定)は却下決定が口頭弁論を経ずしてなされた場合といえども抗告は許されざるものとし、「蓋し裁判所カ其ノ為シタル判決に誤謬ナシトシテ更正ノ申立ヲ却下シタルニ拘ラス之アリトシテ他ヨリ其ノ更正ヲ強フルコトヲ得ヘキ筋合ノモノニ非サレハナリ」と理由を付しているから右判例は却下決定の性質からして抗告を許さないとしているものと解される。

しかしながら右の如き理由は同様に裁判所がそのなした判決に誤謬があるとして更正した場合にも他からその誤謬がなかつたと強うることができない筋合であると解するなれば格別であるが更正決定に対しては即時抗告が許されているから右理論は一貫しない憾みがある。

そうとすれば却下決定に対し抗告の適否をいずれの見地から決すべきか白紙に返つて考えるに民事訴訟法第四一〇条には口頭弁論を経ずして訴訟手続に関する申立を却下した決定に対しては抗告をなし得る旨を定めているが、そもそも更正申立は裁判の更正を申立てるものであつて訴訟手続に関するものでないと解するから本条によつても抗告は許されず他に却下決定に対し抗告を許す規定は窺われないから判決の更正申立却下の決定に対しては抗告は許されないものと解しなければならぬ。

そして調停調書の更正申立の却下決定についても判決に対するそれに準じて解するのが相当である。

よつて本件抗告は不適法としてこれを却下すべく、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条に則つて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

(別紙)

目録

名古屋市中区南伏見町二丁目四十三番

家屋番号第四十九番

一、木造瓦葺平家建店舗

建坪十五坪三合四勺

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